こんにちは! 少し間が空いてしまいましたが分析室よりコラムの続編をお届けします!
pHと色の関係から、色とクロムへと話題が広がり、2回にわたってクロムに関するコラムをお届けしてきました。
まだご覧になられていない方や、そんな2か月も前のことなんてもう覚えていないという方はぜひ以下よりご覧になってみていただけると嬉しいです☺
【pHの世界 vol.1】pHと色 / クロムと色の意外な関係❓ / クロム顔料が色彩表現を塗り変える❓生彩を求めて
クロム特集の最終回となる今回の主役は、色とりどりの輝きで私たちの目を楽しませてくれる宝石たちです。
自然が生み出した芸術品といっても過言ではない色鮮やかな宝石たちの世界においても、色彩の魔術師クロムはその特性をいかんなく発揮しています。
(1) コランダム(鋼玉) : ルビー&サファイア
ルビーは、酸化アルミニウムAl2O3の結晶であるコランダムの仲間です。純粋なコランダムは無色透明ですが、不純物として微量のクロムイオンが混ざることであの深い赤色が生まれます。

意外かもしれませんが、美しい青色が印象的なサファイアも同じくコランダムの仲間で、クロムによって赤い宝石となったものがルビー、それ以外の色がついている宝石は青色に限らずサファイアに分類されます。

不純物としてクロムを含んでいても、量が少なすぎてルビーと呼ぶには色の薄いものなどはピンクサファイアと呼ばれることもあります。

(2) ベリル(緑柱石) : エメラルド&アクアマリン
エメラルドとアクアマリンも(1)と同様に同じ組成を持つ双子のような関係にあります。
微量のクロムやバナジウムによって緑色となったものがエメラルド、2価の鉄イオンで青くなったものがアクアマリンです。
これらはどちらも化学式Be3Al2Si6O18で表されるベリル(緑柱石)と呼ばれる鉱物の仲間です。


このように、同じ組成を持つ鉱物同士であっても、クロムをはじめとした僅かな不純物の違いが、まるでほんの些細な出来事が人の運命を左右してしまうかのように、宝石の見た目や価値を大きく変えてしまうのです。
スター効果と【推しの子】の双子
ところで、あなたは【推しの子】という漫画作品をご存知でしょうか? 2023年からアニメ化もされ主題歌の「アイドル」(YOASOBI)とともに世界的にも絶大な反響を呼び、ドラマ化、実写映画化、2026年にはアニメの第3期の放送も予定されています。原作の漫画も完結し、最終回の衝撃的な展開はファンの間で大きな話題となりました。
そんな【推しの子】ですが、その物語にはルビーとアクア(アクアマリン)の名前を持つ双子の兄妹が登場します。宝石の世界ではルビーと双子のような関係にあるのはサファイアでしたね。にもかかわらず、同じ組成を持つサファイアではなくアクアマリンの名が使われているのです。少し不思議に思いませんか?
さらに、二人の瞳はスター性を象徴する星のような光を宿すのですが、実際の宝石にもこれと非常によく似た光の模様が現れる「スター効果(アステリズム)」という光学効果が存在します。このスター効果を見せる宝石の代表格がルビーとサファイアで、それぞれスタールビー、スターサファイアと呼ばれます。


これだけ聞くとネーミングの際にサファイアが選ばれなかったのがますます不思議に感じられるかもしれません。
しかし、物語の顛末を見届けた上でじっくり考えてみると、これほどまでにうまくできた配置はないと感じることができるのではないでしょうか。
気になった方はよろしければどうぞ本作に触れてみてください。

おわりに:私たちの身近にある色彩の秘密
いかがでしたでしょうか?
今回の記事では、クロムがアートの世界だけでなく、自然界の宝石という形で私たちに美しい色彩と驚きを与えてくれることをご紹介しました。そして、人気漫画【推しの子】については登場するキャラクター名ひとつにも現実の宝石や光学効果を絡めた妙技が光り、人気作品たる所以の一端を垣間見ることができたのではないでしょうか。
私たちの身の回りにある様々な現象や物質は、知れば知るほど奥深く、それ自体もまるでよくできた物語であるかのように感じることができるかもしれません。
さて、【pHの世界】の連載開始早々、クロムを語りたい情熱を抑えきれずに長い寄り道をしてしまいましたが、3回にわたる特別編もこれにて終了です! 次回からは再び【pHの世界】へと戻り、新たな発見をお届けしていきたいと思いますので、引き続きどうぞお付き合いくださいね!