こんにちは。Vol.1の公開からずいぶん間が空いてしまいましたが今日は分析室より連載コラム【pHの世界】のVol.2をお届けします!
今回のテーマは「pHとゼータ電位/等電点」です!
このテーマを通じて、水処理や化学、食品の分野などで溶液を「凝集させる」あるいは「安定(分散)させる」技術の「なぜ?」に迫ります。
例えば、こんな疑問を感じたことはないでしょうか?
- 「凝集剤の効きが安定しない時があるのは何故?」
- 「フロックが解体してきたけど思い当たる理由がない…なぜ?」
- 「塗料や化粧品の安定・不安定化、凝集や沈殿はどうして起こるの?」
その原因、pHかもしれません!
今回のテーマである「ゼータ電位」と「等電点」を理解することで、こうした「なぜ?」がすっきり解明され、pHによる制御や管理を可能にする足掛かりにしてもらえたら嬉しいです。
今回は複雑な原理や用語はいったん脇に置いておいて、等電点やゼータ電位とは何なのかをざっくり分かりやすく解説していきます。
ゼータ電位とは? ~その正体は「電気的な反発力」~
ごくごく簡単に言えば、ゼータ電位とは
「水中に漂う粒子同士の『電気的な反発力』を数値化したもの」
です。
水が濁っていたり、塗料が均一だったりする状態は、目に見えないほど小さな粒子が、お互いに反発しあってバラバラに漂っている状態です。
なぜ反発するのか?
多くの粒子は、水に触れると表面が帯電する性質があります。多くの場合、マイナスの電気を帯びます。
まさに、磁石のN極同士を近づけると反発するのと同じように、電気的にも「マイナスとマイナスは反発しあう」「プラスとプラスも反発しあう」という性質があります。
ゼータ電位の数値(絶対値)と粒子の状態には、一般的な目安があります。
- 不安定(凝集しやすい)
→ ゼータ電位が 0mV付近。-10mV ~ +10mV 程度。
→ 粒子同士の反発力がほぼ無いため、凝集・沈殿しやすい状態です。 - 準安定(凝集の境界域)
→ ゼータ電位が ±10mV ~ ±30mV 程度。
→ わずかなきっかけ(pHの変化や塩分の混入など)で凝集しうる、不安定な領域です。 - 安定(分散状態)
→ ゼータ電位が ±30mV を超える (例: +50mV や -50mV)。
→ 粒子同士がプラス(+)かマイナス(−)のどちらかに強く帯電しており、お互いに強く反発しあうため、安定して分散した状態を保てます。
※これらの数値はあくまで一般的な目安です。粒子の種類や液体の状態によって、安定するしきい値は異なります。
つまり、ゼータ電位は、粒子が「凝集する」か「分散する」かを予測するための、非常に重要な「電気的な反発力」の指標なのです。
「等電点」とは何か? ~反発力を失うpHポイント~
では、どうすればその反発力、ゼータ電位をコントロールできるのでしょうか。
そのカギを握るものこそpHに他ならないのです!
実は、粒子が持つゼータ電位の強さは、その水溶液のpHによって劇的に変わる、という性質があります。
なぜpHでゼータ電位が変わるのでしょうか?
- そもそもpHとは別名水素イオン濃度指数とも呼ばれるとおり、水中の「H⁺(水素イオン)」と「OH⁻(水酸化物イオン)」のバランスを数値化したものです。
- H⁺はプラスイオン(カチオン)、OH⁻はマイナスイオン(アニオン)です。
- そして、水中の粒子の表面は、このH⁺とOH⁻のバランス(=pH)が変わると、その影響を受けて表面の電気的な性質(プラス寄りになったり、マイナス寄りになったり)が同じように変化します。
このように、pHは、粒子表面のプラス/マイナスそのものを変えてしまうメインスイッチなのです。
そして、多くの粒子には、
「ゼータ電位がちょうど ゼロ になるpH」
が存在します。
この特別なpHのことを、「等電点(IEPまたはpI)」と呼びます。

※実際の等電点やゼータ電位の値、曲線形状、安定性の境界値は物質や条件により大きく異なります
最も身近な『等電点』の例:牛乳
牛乳にレモン汁やお酢など酸の強いものを入れた結果モロモロと固まってしまった経験はないでしょうか?
牛乳のタンパク質(カゼイン)は、通常の牛乳(pH 6.7付近)ではマイナスに帯電して反発しあい、安定して分散しています(=ゼータ電位が高い状態)。
しかし、そこに酸を加えてpHが下がると、カゼインの等電点(約pH 4.6)に近づきます。
すると、ゼータ電位がゼロに近づくことで、反発力を失ったタンパク質同士がくっつき始めるのです(=凝集)。これはカッテージチーズやヨーグルトが固まる原理に他なりません。
もうお分かりですね。
私たちが「pH」を調整するということは、この「反発力」を自在にコントロールしようとすることなのです。
- 粒子を「凝集」させたい(くっつけたい)場合
→ pHを等電点に近づける(反発力を失わせる) - 粒子を「分散」させたい(安定させたい)場合
→ pHを等電点から遠ざける(反発力を高める)
ゼータ電位とpHの「産業での使われ方」
この「ゼータ電位」と「等電点」という考え方は、私たちの身の回りの様々な分野で活用されています。
1. 凝集・沈殿させたい分野(例:排水処理)
排水処理施設の汚泥フロックは、多くの場合マイナスに帯電しており、お互いに反発しあって(ゼータ電位が高く)濁りを生んでいます。
そこで現場では、ジャーテストや過去の経験則に基づきpHを調整しますよね。
実はその操作こそが、ゼータ電位による反発力が最も弱くなるポイント「等電点」にpHを近づけようとする作業なのです。
「凝集剤の効きが悪い」「活性汚泥のフロックが解体する」といった悩みは、原水の水質変動などで、この「最適なpHバランス(等電点)」もしくは「pHそのもの」がいつもとズレていることが原因かもしれません。
「最適なpH(等電点)」や「必要な凝集剤(PAC、カチオン系凝集剤など)の種類や最適な量」はゼータ電位によって決まっているのです。
2. 分散・安定させたい分野(例:塗料、化粧品)
逆に、塗料、インク、化粧品(ファンデーションなど)、あるいはセラミックの製造といった分野では凝集されては困ります。
製品が分離・沈殿せず、長期間均一な状態を保つ(=分散安定性)ことが求められます。
この場合、pHを等電点から最も遠い領域(ゼータ電位が最も高くなる領域)に調整します。
そうすることで、粒子同士が強く反発しあい、凝集・沈殿しない安定した製品を作ることができるのです。
「ゼータ電位と等電点とは?pHで凝集⇔分散が変わる理由」まとめ
今回のポイントをまとめます。
- ゼータ電位とは、粒子の「反発力」の指標である。
- 「等電点」とは、その反発力(ゼータ電位)が失われる「最適なpH」のこと。
- 凝集させたいならpHを「等電点」に近づける、分散させたいなら「等電点」から遠ざける。
- pHは、凝集・分散をコントロールする「メインスイッチ」である。
いかがでしたでしょうか。「なぜpH調整が重要なのか」、スッキリご理解いただけたなら幸いです。
今回は実用的な側面に絞るため、ゼータ電位を「反発力」とだけ説明しましたが、いずれはゼータ電位の原理を分かりやすく解説する記事も書くつもりでいますので、ゼータ電位の原理や電気二重層などについてもっと知りたい、または、調べたことはあるけどよく分からなかったというあなた! どうぞ楽しみにしていてください☺
最後に、宣伝になってしまいますが、弊社ではゼータ電位だけでなく様々な分析項目も併せて測定したり独自の評価ノハウに基づいた多角的な分析も可能ですので、もしご相談などがございましたらぜひ一度お問い合わせください。

