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クロム顔料が色彩表現を塗り変える❓生彩を求めて

 2025/04/07   

以前のブログ記事「クロムと色の意外な関係❓」では、元素クロム(Cr)が、ステンレスやメッキといった身近なものに使われている一方で、その名前がギリシャ語の「色」に由来するという、意外な一面をご紹介しました。今度はいよいよ色彩豊かなクロムの化合物たちを実際に見ていきましょう。

クロム(II)イオンの青色

クロム(II)イオン水溶液
特徴的な青色のクロム(II)イオン水溶液 (NEUROtiker / CC BY-SA 3.0 / Wikimedia Commonsより)

こちらは、水に溶けたクロム(II)イオンの様子です。真夏の白い砂浜から見渡すどこまでも続く遠浅の海のような、少し水色っぽい特徴的な青色をしています。

クロムから生まれた多彩な顔料たち

クロムが元素として発見された後、その特性を活かして様々な色の顔料が作られました。顔料に使われるクロム化合物の中で代表的なものをご紹介します。

二クロム酸カリウム
鮮やかなオレンジ色の顔料、二クロム酸カリウム (Wikimedia Commonsより)
クロム酸カリウム
明るい黄色のクロム酸カリウム (Wikimedia Commonsより)
酸化クロム(III)
緑色の酸化クロム(III) (Wikimedia Commonsより)

絵画の世界において、クロム顔料は欠かせない存在でした。鮮やかなオレンジ、明るい黄色、そして深みのある緑。これらの色彩は、数々の芸術作品に命を吹き込み、私たちの心を捉えてきました。

ゴッホの「ひまわり」:クロムイエローの鮮烈さが描く、生命の賛歌

ダイナミックな色使いで見る人の心を惹きつけるフィンセント・ファン・ゴッホの代表作「ひまわり」。この作品にも、クロムに由来する黄色顔料であるクロムイエローが用いられています。Google Arts & Cultureに、このクロムイエローとゴッホの作品について詳しく解説した記事が公開されています。ぜひこちらもご覧ください。
>> フィンセント・ファン・ゴッホ:クロムイエロー — Google Arts & Culture

当時比較的新しい顔料であったクロムイエローのこれまでにない鮮やかな色彩は、ゴッホが追い求めていた生命の輝きやその根源的なエネルギーを表現する上で重要な役割を果たしたのかもしれません。


フィンセント・ファン・ゴッホ『ひまわり』 (1888, National Gallery London)
フィンセント・ファン・ゴッホ『ひまわり』(1888年、ロンドン・ナショナル・ギャラリー蔵、Wikimedia Commonsより)

このように、様々な姿を見せてくれるクロムですが、クロムによって彩られるのはアートや工業製品のみにとどまりません。次回は、自然界におけるクロムの活躍をご紹介したいと思います。どうぞお楽しみに!

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クロムと色の意外な関係❓

 2025/01/31   

こんにちは! 今日は分析室より、以前投稿した【pHの世界 vol.1】pHと色の続編をお届けしたいと思います。
前回vol.1では、「pHと色」をテーマに、エリオクロムブラックT(EBT)やポリフェノールの一種であるアントシアニンが示す色の変化についてお話ししました。
まだご覧になっていない方は、ぜひチェックしてみてくださいね。

【pHの世界 vol.1】pHと色

今日は本来なら【pHの世界 vol.2】をお届けするところでしたが、今回は番外編としてメインテーマであるpHから少し寄り道して前回の内容を少し掘り下げたいと思います。
前回登場した「エリオクロムブラックT(EBT)」の名前に隠された秘密を探りながら、「クロム」という元素にまつわる不思議な世界をご案内します。

原子番号24の金属元素「クロム(Cr)」

クロム(Cr)という元素をご存じでしょうか? 硬くて光沢があり、美しい見た目を持つだけでなく、表面に目に見えない薄い酸化被膜が形成(不働態化と呼ばれます : 不動態 – Wikipedia )されるため、非常に錆びにくい性質を持っています。

この性質を利用して、クロムはさまざまな用途に使われています。
たとえば、キッチンのシンクや包丁に使われるステンレス鋼(SUS)。
また、水道の蛇口などもクロムメッキによるものがほとんどです。
他にも、身の回りの革製品の多くは鞣し(なめし:動物の皮をバッグや靴などに使える「革」にする工程)にクロムが使われています(クロム鞣し)。
こうして見てみると、クロムはさまざまな形で私たちの生活に密接に関わり、欠かせない役割を果たしていることが分かりますね!

「クロム」の意味、由来

ここで前回登場した「エリオクロムブラックT(EBT)」を思い出してみましょう。名前には「クロム」が含まれていますが、意外なことに(?)実際はクロム元素(Cr)を含むわけではありません。
ちょっと不思議だと思いませんか?
命名の由来について明確な記録は残されていないのですが、羊毛の染色に用いられてきたことから古代ギリシャ語における羊毛εἔριον(érion)と色χρῶμα(khróma, chroma)に由来するものと思われます。
実は、元素のクロム(Cr)もこのχρῶμα(色)から命名されました。
他にもこのχρῶμαに因む語はいくつも見つけることができます。

クロマトグラフィー(英: chromatography)は、ロシアの植物学者ミハイル・ツヴェットが発明した、物質を分離・精製する技法[1]。物質の大きさ・吸着力・電荷・質量・疎水性などの違いを利用して、物質を成分ごとに分離する[1]。

クロマトグラフィーは色(ギリシャ語で chrōma)を分けるといった意味合いを持つ。

クロマトグラフィー – Wikipedia

染色体(せんしょくたい)は、遺伝情報の発現と伝達を担う生体物質である。塩基性の色素でよく染色されることから、1888年にヴィルヘルム・フォン・ヴァルダイヤー(ワルダイエル、Heinrich Wilhelm Gottfried von Waldeyer-Hartz)によって Chromosom と名づけられた(英語では chromosome)。Chromo- はギリシア語 χρῶμα (chroma)「色、色素」に、-some は同じく σῶμα (soma)「体」に由来する。

染色体 – Wikipedia

モノクローム (英: monochrome) は、単一の色で図画などを描くこと、またはその図画自体を指す[1]。語源はフランス語で「単色」を意味する言葉で、元々は美術の分野で使われた言葉であった[1]。これから転じて印刷・写真・映画・テレビの分野でも、主に白黒のみで表現するものをモノクローム(あるいは略して「モノクロ」)と呼ぶようになった[1]。

モノクローム – Wikipedia

半音階(はんおんかい、クロマティック・スケール 英語: chromatic scale)とは、隣り合う音の音程関係がすべて半音で構成されるような音階。

半音階 – Wikipedia

色彩豊かな表現というニュアンスが音楽の世界にまで広がっているのは興味深いですね。

GeminiのImagen 3で生成した「 chromatic scale fish 」のイメージ

ところで、あなたがこの記事を閲覧するのに使っているブラウザはもしかして「Google Chrome (クローム)」ではありませんか?(違ったらごめんなさい🙇)
WebブラウザのChromeも、その由来をたどると、開発の元になっているソフトウェアがChromiumという名前でこれはまさに元素のクロム(Cr)のラテン語での呼び名です。

Google Chromeのロゴ
※ Google Chrome™ はGoogle LLCの商標です。

Chromeのロゴも赤・黄・緑・青と、とてもカラフルな配色になっていますね。
これは、Googleのブランドカラーを反映したものですが、興味深いことに クロム(Cr)の化合物もまた、赤、青、緑、黄色など多彩な色を示すことで知られています。
非常に色彩豊かで、まさに「色」の名にふさわしい元素と言えるでしょう。次回は実際にクロムが織りなす色鮮やかな世界をご紹介していきたいとおもいます。お楽しみに!

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【pHの世界 vol.1】pHと色

 2024/11/13   

あなたは「pH」と聞いて何を思い浮かべますか?
子供のころの理科の授業で見たリトマス試験紙やBTB液、フェノールフタレインを使った実験の印象が強いという方も多いのではないでしょうか?
そういわけで、以前告知させていただいた「pHの世界」、連載第一回目のテーマは「色」です!
pHと色の意外な(?)関係に迫ります🔍

前出の告知記事でも溶液の色が変化する様子を動画でご覧いただきましたが、ここでもう一度この動画を見てみましょう。

こちらはBTBでもフェノールフタレインでもなく、エリオクロムブラックT(EBT)という指示薬によるものです。
pH6以下で赤、7~11で青、12以上ではオレンジ色になりますが、EBTは一般にはpH指示薬としてではなく金属指示薬等に利用されています。ブログに掲載するために今回だけの特別な操作を行い撮影しました。

pHによって色が変わるものは指示薬だけではありません。
紅茶にレモンを入れた時に色が薄くなったと感じたことはありませんか?
これは紅茶に含まれるポリフェノール系の色素が酸性で色が薄くなる性質を持つためです。

ポリフェノールの中でも特にアントシアニンはpHによる色の変化が顕著で、紫キャベツなどアントシアニンを含む食材が酢やレモン汁などの酸性の調味料で鮮やかな赤やピンクに変わるのを目にされたことがあるかもしれません。
他にも、酸性のヨーグルトにブルーベリーを入れると色がより鮮やかになったり、赤紫蘇で梅干しがきれいな赤に染まったりと、身近なところでもpHによる色の変化を体験することができます。

「色」をテーマにお届けした第一回pHの世界、いかがでしたか?
次回以降もpHの世界を少しずつ掘り下げていきたいと思いますので、次回もどうぞお楽しみに!
土壌pHによって色が変わるアジサイの花

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pHの世界

 2024/09/30   

こんにちは! 分析・研究担当の能登です。
突然ですが、あなたはpHのこと、どのくらい知っていますか?
pHが酸性・アルカリ性の指標であることはご存じの方が多いと思いますが、その値の意味や定義、酸度やアルカリ度との違いは?そもそも酸とは?アルカリとは?など突っ込んだお話になるとちょっと自信がない…という方も以外と多いのではないでしょうか?
そこで今後、本ブログにてpHの基礎や雑学などを少しずつ短い記事にして連載していきたいと考えています。
水質分析の基本中の基本でありながらも実は非常に奥が深いpHの世界をいっしょに解き明かしていきましょう!

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⛄冬の排水処理場トラブルに微生物活性の見直しが必要な理由とは?

 2023/12/01   

今日から12月……早いもので、2023年も残すところひと月となってしまいました。
冬の訪れを実感するような寒さの日が続きますね。皆様も体調を崩されたりしないようお気を付けてお過ごしください。

また、この冷え込みに注意が必要なのは人間だけではなく、排水処理場の微生物たちも、寒くなるにつれ活性が低下し、処理水もその影響で水質が悪化しやすく、いっそう注意深い管理が必要になってきます。

汚泥が沈まない(沈降性悪化、バルキング現象)、汚泥が黒い、異臭がするなど、トラブルの兆候が現れた際は、本サイトにて対策の説明や事例の紹介など多数ありますのでぜひ参考になさってください。

また、無料相談もできますので、お困りの際はお気軽にご相談ください🙌